Suminoe Sounds

Electronic Organ ACE TONE TOP-1 / 1960's Suminoe Sounds


Suminoe Soundsの原点

ACE TONE TOP-1は、かつて大阪住之江に存在した電子楽器メーカー・エース電子工業が1960年代中期に生産していた電子発振式ポータブルオルガンです。オルガ ンと言えばかつては据置形の空気式大型パイプオルガンが一般的でしたが、HAMMOND B-3などの電子オルガンが登場しオルガンを取り巻く情勢は少しずつ変わりました。そして大阪住之江にかつて存在した楽器メーカー・エース電子工業は、日 本で最初に電子オルガンを本格的に開発しました。ビートルズ来日後ロック音楽が徐々に認識されていく頃に登場したのが、この電子オルガンACE TONE(エーストーン) TOP-1です。持ち運びが可能な位の軽量化を実現したことでどこでも簡単に設置することができ、鍵盤楽器としては当時前例のない画期的な製品とされたそ うです。60年代中期の登場以降、ジャズやポップスの演奏などでも気軽に演奏できる鍵盤楽器として世間に浸透していきました。これまでの鍵盤楽器はピアノ などのように大きく持ち運びが難しいものばかりでしたが、コンパクトになったことで一般家庭や小学校などにおいて一人一台の割り当てを可能にし、音楽教育 において新たな活路を開いていった点は見逃せません。ACE TONEは電子楽器中心のブランドとして真空管アンプやギターエフェクターなども生産していましたが、その中でもTOP-1はACE TONEの名を60年代の音楽業界内に大きく広めた製品の一つと言われています。

『痛快極楽時代劇』ピエール(初心者)さんから、60年代当時のACE TONE TOP-1の雑誌広告(再現)をご提供いただきました。発表当時の商品宣伝文句など、当時の時代を垣間見ることのできる資料の一つとして掲載いたしまし た。心よりお礼申し上げます。

私がSuminoe Soundsの原点と言えるべきこのオルガンを見つけたのは2005年3月でした。この機種における詳しい情報は知らなかったんですが、個人的にかつて住 之江で作られていたエーストーンやローランドの楽器を集めていた中で、この機種は一度触れておく価値があるだろうと思っていたんです。状態の悪いジャンク品だったにもかかわらず、多少音が出なくてもアナログ回路なら自力修理で何とかなるだろうと思い、ふと見つけた瞬間リスク覚悟など考えず衝動買いをしてい ました。数日後、商品が届き早速状態を確認したのですが、木製ボディの外観がかなり傷んでいて、G(ソ)の鍵盤が3つ浮いていたり全体的に汚れとホコリが こびりついていたりと、想像以上にひどいものでした。軽く布でホコリを払った後電源を入れ、オーディオシールドをギターアンプに繋ぎ鍵盤を押してみまし た。…が、C(ド)の音が出ません。運悪く早速問題発生です。全部の鍵盤を一通り押してみると全ての音階においてCの音だけ出なかったので、どうやらCの 音を発生させる部分に問題の可能性が考えられました。メーカーが存在しない今は自力修理しか道はないので、このサイトにて修理過程を記録しつつ手探りで再生に取り組んでみようと決めたんです。修理不能ならその時は別の買い手を探して何とかしようなんてことを考えつつ、ドライバーを取り出し蓋を開けてみるこ とにしました。


再生の記録

ネジを外して開けてみると、とにかく配線の多さが目立ちました。木製ボディの中には電子回路が配置されていましたが、ホコリま みれの状態だったのでまずは錆やゴミを取り除き、少しでも綺麗な状態に戻そうと掃除をしました。ある程度内部の状態が良くなったところで、故障原因の検証 を始めました。配線には全て細いエナメル線が使用され、当然ながら人手でハンダ付けされた原始的な回路がいくつも繋がっています。ICチップも無い時代の 製品なので、まさにSuminoe Soundsの原点とも言える回路構成に触れているのは違う意味で新鮮でしたね。この時点で配線程度なら自力で全て修復可能と判断できました。





鍵盤の配線をよく見てみると、各鍵盤あたり1本ずつのエナメル線が左上の金属箱に繋がっていました。その金属箱の接続コネクタ には、Cの音ならCで同じコネクタに、その他の音もそれぞれ音階ごとに決められた同じコネクタにまとめて繋がっていたんです。箱の表面には、左から C B A# A G# G F# F E D# D C# と記載されていたので、鍵盤を押すと音階ごとに一枚の基板から倍音を加えてオクターブ音を作る仕組みになっていると推測されました。Cの音だけ出ない理由 はおそらくC用の発振回路が壊れているためと判断し、よく見るとコネクタの根元がグラついて取れかかっている状態でした。おそらくこの部分が音の出ない原 因で、この回路さえ修復すればCの音を鳴らせるだろうと見抜きました。そして次は発振器が入っている金属箱を開けることに取りかかることに決めました。金 属の蓋はしっかりとネジ止めされているんですが、あまりにも固くて簡単に開きません。ドライバーの先が合わなくてネジ穴を傷めてしまいそうになり、慎重な 作業を求められました。1時間ほど色々な方法を考えながらドライバー片手に試したのですが、いくら回してもどうしても開かなかったので、結局は金属箱を一 旦ボディから取り外してから全て分解してみることになりました。一時は電動ドライバーの購入を真剣に考えた位に固かったネジでしたが、根元から外してみる と固いネジも意外と回しやすくなって、1つが外れるとその後はあっという間に全てのネジが外れていきました。そしてついに金属箱の分解することができたの で、次は内部の検証を行います。

数日かかってようやく開いた金属箱の中には、小さな抵抗やコンデンサーがたくさん積まれた基板が12枚入っていました。基板は 手のひらに乗るくらいの大きさで、モーターのような回転子が入っていそうな形の部品が1つずつ付いています。おそらくこれが電子発振器であると推測され、 部品の組み合わせにより各音階が決められているんだろうと思われます。各基板はソケット状のコネクタに差し込まれていて、簡単に抜き差しできる構造です。 分解するとよく分かるのですが、Cの音だけ鳴らなかったのは写真左端のC基板を差し込むコネクタのみ割れているため音が出なかったのです。真っ二つに割れ ていて接触部もバラバラになっていました。他の基板コネクタも割れてはいないものの、ひびが入っているものを数ヶ所見かけました。ただ基板そのものに損傷 は見られなかったので、コネクタの修理が完了すれば再び音を鳴らせるはずだと確信しました。そしてプラモデル用のプラスチック接着剤を用いて、割れたコネ クタ部品を接着することで今回の処置としました。同時にひび割れが見られたコネクタに付いても、破損の進行防止を考慮して接着剤を薄く流し込んでおきまし た。ついでに鍵盤部分も取り外し、普段手の届かないケース内部の掃除も行いました。内部に溜まっていたホコリはかなりの量で、この時可能な限り取り除きま したがその後は気分的にも変わりましたね。その後分解した部品を全て組み立て直し、再びシールドをセットして電源を繋ぎ問題の鍵盤を押してみると、Cの音 が再び鳴るようになりました。これでついに再生修理は完了し、1960年代のSuminoe Soundsを自力で甦らせることに成功したんです。



本体の特徴

このTOP-1の外観は、とにかくヴィンテージという言葉に相応しいものです。ボディは全て木製で全面レザー貼りとなっていて、キャリ ングケースと一体構造になっています。持ち運び用のハンドルが本体に付いていて(但し私の所有機の場合ハンドルが取れかかっていたので持ち運びは実用的で はない)、移動演奏を前提に作られています。底面にはスタンドとなる足パイプを4本差すことができるように、若干斜めに傾いた穴が付いています。もし足を 取り付けたならテーブルのような形になります。なお私の場合は足を持っていないので取り付けていません。つまみとスイッチの構成は左から順に、BASS VOLUME, BASS, FLUTE, ORGAN, SAX, REED, STRING, TREBLE, VIBRATO, VIBRATO, VIBRATO, BALANCE, VOLUME, POWERです。正確に量ったことはありませんが、おそらく30キロ位はあるかと推測されます。上蓋を取ると、赤いレザーが貼られたボディがとても目立つ デザインになっています。キーボードは49鍵、4オクターブ分備わっています。そのうち左側12本の鍵盤の色は、黒と白が入れ替わった配色となっていま す。この12鍵のみはベース音に対応した鍵盤となっていて、表面のBASSスイッチにて切り替えることができます。音量つまみは通常のVOLUMEとは別 に、BASS VOLUMEが付いているので個別調節が可能です。

鍵盤から見た右側面には奥まった部分があり、この中にはプラグを差し込むために、 HEAD PHONE, EXPRESSION PEDAL, AMPLIFIER の3つのジャックが付いています。HEAD PHONE端子が付いているということは、すでに夜間など音を外部に出さない練習での使用を考慮されていたと言えます。電源コードもこの部分から伸びてい ますが、使用しないときはケースの上蓋をかぶせてコードを奥まった中に隠す構造になっています。ちなみにこのオルガンTOP-1はどんな音がなるかという と、第一印象の一言で表すとしたら…まるでありったけの電子部品素材が唸ってるような感覚…と言っておきましょう。尖りきってはないけれども微妙に音の中 には粗さが潜んでるというか、なかなか面白い音が時代を感じさせます。ギターアンプに繋いで弾けば見た目も音も目立つ存在となることでしょう。 FLUTE, ORGAN, SAX, REED, STRING, TREBLEの各スイッチでは音の種類を組み合わせて選ぶことができます。それぞれの楽器音を真似てみたものと思われますが、実際は遥かに遠いもので楽器 の代用にはなりません。ORGANスイッチを押せばもちろんORGANの音が鳴りますが、その他の楽器スイッチを押しても出てくる音はORGAN…と解釈 しても何ら問題はないでしょう。FLUTEを押せば細い音のオルガン、STRINGを押せばざらついた音のオルガンと…いったように、電子オルガン音とし ての味付けにはそこそこ使えます。ベース音も弾いたんですが、期待よりもあまり大きな音は鳴らなかったですね。かなり丸めの音です。忘れかけていた懐かし さを感じさせるこのオルガンさえあれば、ポップスやジャズなどの弾き語りや伴奏にはちょうどいい気がします。使ううちにまた壊れてしまうのが心配ではあり ますけれども、状態の悪い鍵盤にもかかわらず不思議と触りたいと思わせてくれるのはこのオルガンの魅力なんでしょうか。

まとめ

エース電子工業は、大阪住之江だけでなく浜松にも楽器工場を持っていたと聞いており、TOP-1はおそらくどちらかの土地で製 造されたものと思われます。現在でもエーストーンと言えばまずこのポータブル電子オルガンTOP-1を思い起こす人は多く、登場から40年近く経った現代 でも一目置きたくなる存在の楽器であると感じました。TOP-1の発表後エースではオルガン技術の進展につれて、リズムマシーンやエフェクターなど副産物 とも言える音楽機材が次々と開発されていきました。創業者の梯氏がエース退社後に設立された世界的音楽メーカー『ローランド』でも、シンセサイザーに代表 される革新的音楽技術の中にはエーストーンから培った技術が息づいていると言って良いと思います。それらの電子楽器文化の原点でもある電子発振式ポータブ ルオルガン・ACE TONE TOP-1が、業界に残した功績はきっと数えきれないでしょう。そして私にとってはこのオルガンと出会ったことで、生まれ故郷の住之江という土地に再び関心を向けさせてくれるきっかけの一つとなったのは紛れもない事実であります。


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